サンタがくれたごめんなさい

 

嫌な夢を見たらしい。ゆっくりと光が侵入してきて部屋の中が少しずつ紫に染まっていく。真っ赤な網タイツとワインでびしょ濡れのバスタオル、蟻の群がるショートケーキと食べかけのチキン、プラス、数字と長針と短針が引き剥がされて秒針だけが動く時計。それらのモノと差し込む光が共鳴して何処かに行ってしまうのではないかと不安になったらしい。クリスマスカラーにラッピングされたトラックの鳴らす音楽が段々近づいて来るのが聞こえてますます不安になり、怯えてとっさにテレビのリモコンのスイッチを次々に押していった。壁一面を埋め尽くすように並んだ55インチのテレビから部屋中を染めるようにホワイトノイズが鳴り始めると、目を大きく見開きニヤニヤしながら舐め回すようにそれらを眺めた。気が付けば既に部屋は真っ暗だったから、天井にぶら下がる部屋には不釣り合いなほど大きなシャンデリアの電気をつけた。

バキバキにひび割れた鏡に顔を近ずける。これまでは伏せておく事で鏡に対処してきたが、いつの間にか鏡としての機能を失ってしまったガラスに向かって、今日も綺麗なんですよ〜と言いながら唇を紅で塗りつぶしていく。

 

エレベーターで地下1階の駐車場に降りる。車は所持していないが外出する時は必ずここを通る。全てを遮断する無機質で冷たいコンクリートの壁、バチバチと音をたてながら暗い光を放っている切れかけた蛍光灯、プラス、床に染み込んだガソリンの匂い。恍惚とした表情を浮かべながらこの空間をゆっくりと進んでいく。

 

真っ白で足跡ひとつない場所に1回1回ゆっくりと自分の足を沈めていく。この動作を規則正しく続ける事で自分が無限に複製されていくような気がしてきたらしく、うれしくなって後ろを振り返り足跡に向かってピースをキメた。怖いものなんて何もない、いつまでもどこまでも歩いていける、そんな表情をしていた。ずっと下を向いて歩いていたので気が付かなかったが、二階の部屋の窓から両手の掌を差し出してゆっくりと降りてくる雪を受け止めていた男の子と目が合った。すかさず、メリークリスマス!と叫んだが、途端、急いで部屋の窓を閉めてしまった。通りに面したお店のシャッターはほとんど閉まっていて街はとても静かだった。

 

 

「いらっしゃいませ。」

 

ドアの側に置いてある買い物カゴを手に取ってお酒の入っている冷蔵ケースへと向かい、ワインのボトルを2本カゴの中に入れた。近くにあった山積みの骨付きチキンを見ていたら興奮してしまったらしく、店員がコチラを見ていない事を確認した後で、梱包しているラップに引っ付いているチキンを黒いマニキュアを塗った細長い小指の爪で抉り傷を付けた。そしてそれを戻した後で下にあるチキンを2つ取りカゴの中に入れた。最後にストロベリーのホールケーキをカゴに入れて会計のレジへ向かった。

店員の胸のネームバッジには初心者マークが付いていた。というか初心者マークのついていない店員には会った事がない上に毎回毎回違う店員がレジを担当するため、このコンビニは一体何人の店員がいるのだろうと不思議そうに首を傾げた。

 

「お金は要りませんので。」

この世の生き物とは思えない程の万遍の笑みで、店員がそう言った。また今日も無料で買い物をしたのだ。もうなぜだろうとかそういう疑問を持たないほど、このコンビニで無料で買い物をしている。

 

 

「ありがとうございました。」

後ろを振り返るとまた険しい笑顔でコチラを見つめている。特に価値のない事をとびっきり明るい様子で言っている店員がおかしくて、大きく目を見開いて店員に笑顔を返した。このやり取りにも慣れてしまったようだ。

 

 

 

「ごめんなさい、本当なんだ。」

ドアを空けたら目の前にサンタがいて、目が合った瞬間に確かにそう言った。そしてゆっくりと目を開いていられなくなっていき意識を失った。

 

 

 

 

 

 

目が覚めると部屋のベッドの上にいた。横のテーブルの上には、ワインとチキンとケーキの入ったビニール袋、そして置き手紙がある。

 

「ごめんなさい、本当なんだ。」

 

ベッドの上で一晩中大声で笑い12月25日が終わった。

 

 

 

 


【第3回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

参加します!

 

 

  

  

ひたすらこの曲をループさせながら書いていきました。Luxuryって何だろうと思ってGoogle先生に聞いたら1ページ目に川崎のソープランド出されてなるほどなと。

 

そしてイブとクリスマスの日に、物語を作る事以上にドラマチックなクリスマスの過ごし方はない事に気が付いてしまったね、オーイェー。

 

俺はなんて自由なんだ・・・!!