甘党

4年間。っつーか1460日。マジであっという間に4年になっちまった。過去、現在、未来。あっという間に時間は過ぎてしまったようだけど、4年前のオレと今のオレ。1浪してるから正確には5年か?退化??完全に羽化するタイミングを逃してしまったってか??バカやろう、まだ始まってもいねぇよ。とかって。過去、現在、未来。さぁ今のオレはドコよ?山積みの漫画、垂れ流しのTV、横たわるアコギ、ビールの空き缶、飲みかけのコーラ、ティッシュなトイレットペーパー、ベタベタとステッカーを貼ったノートPC、ずっと微笑んでるエロ本、干しっぱなしのパンツと靴下、キャバ嬢からもらった名刺、レトルト食品の詰まったダンボール、小さなコタツ。オレの部屋にはなんだってある。なんでもあるけど、なんにもない。なんにもないけど、なんでもある。ってかカオス。カオスは時間が経てばいずれコスモスになるって事を一人暮らしをするようになって分かった。てかマー坊さぁ。てめぇ3日目だぞ。そろそろ自分の家に帰ったらどうよ?

 

「そういえばヤマちゃん、マキちゃんスッチーになるらしいね。」

「へぇー。ぽいぽい。そんな感じじゃん。美人だしな。ってかいつ聞いたん?」

「いやブログに書いてある。今見たべした。」

「は!!!?ってか、はっ!!!!!?ってかナニ!!?マキちゃんブログやってんの!!?」

「んだよ。」

「おめぇマジでWACKだわ!!!なんでそれ今までオレに教えなかったん!!?っつかマー坊マジでワックだわっ!!!」

「ヤマちゃん知ってると思ってたべした。」

「いやマー坊まじないわー!!ってかまじないわー!!」

「ははっ!」

「ってかなんていうブログよ!!?ブログ名教えろ早く!ってかアメブロだな!?なぁアメブロだよな!?」

「FC2」

「え…」

「FC2。」

…」

「マキのにーちじょっ!!」

「ぱねぇ…」

 

なんでFC2にしたんだろ。料理日記とか今日のコーディネイトとか友達とディズニーランドに行った事とか。これ、アメブロだってマキちゃん。FC2でこんなブログ書くなんて、マキちゃんアバンギャルドすぎるよ!

 

「ヤマちゃんは就活しねぇの?」

「何それ食えんの?」

「親泣くぞ?」

「うぇーんって?」

「声ださねぇな。静かに泣くごっだよ。」

「マジでか。」

「ミュージシャンになるならなるで、もっとちゃんとがんばんねーとだめだっぺよ。」

「がんばってるミュージシャンとかだせぇし。オレの目指すタイプじゃないし。」

「そんな甘い世界じゃねぇーっぺよー。」

「ワタクシ、youtuberに、なりたい。」

「パクリだべした、それ。」

「つかマー坊はホント実家帰んの?実家帰ってどうすんのよ?ぜぇっってーつまんないっしょ。」

「だってよー東京に4年間いたけどなんかあったか。東京ってキラキラしてっけど、でも東京ってなんもねぇじゃん。なんか時間もはやぇしさ。オレもっとゆっくり生きてぇべよ。」

「マー坊つまんねぇわ。おめえはマジつまんねぇ。」

「うっせーべした。ほっとけべした。」

 

腹いせに理由もなくスマホを親指でストロークして、流れていく事柄を眺めてたってなんも変わらないって事くらいはわかってるんだけど、流れていく事柄をすくってそこに光を見出してまた少し前に進む。そういう感じじゃないのかなーとも、思ったりしている。

 

 

「うぃーっす!」

「シュンか。」

「ケーキ買ってきたぞ。」

「シュンちゃんナイスだべした!!」

「だべー。」

 

 

シュン別名、意識孝夫。いつからかシュンはカネを稼ぐことがイキガイになっちまいバイトバイトの毎日で就職は考えておらず、自分で事業を起こす予定らしい。今のバイト先で学んだことを生かして企業をするんだそうだ。ってかシュン、忙しいならウチに来んなよ。なんか眩しいよ。

 

「これ駅前のケーキ?」

「だよ。」

「まじかー。あそこのケーキ甘いんだよなぁー。どんだけ砂糖入ってんだよこれよー。」

「じゃぁ山ちゃんは食うなよ。」

「でも美味いんだよなー。でも砂糖たくさん入ってんだよなー、きっと。ほんとなんでもそうだけどよ困った事に不健康なもんほど美味いんだよなぁー。」

「健康で美味いもんだってあるべした?」

「けどなんかそういうのワクワクしねぇじゃん。」

「確かにねー。わかるわー。キシリトールのガムみたいな?」

「いやちょっと違うなそれ。キシリトールは美味しくはないっしょ。健康にいいけど。」

「オカラクッキー!健康によくて美味いべした。」

「女子かよ。」

「なんかオレにあだりつよぐねぇ?」

「マー坊、気のせいだ。」

 

白い箱の中からシュンがアップルパイを摘んで口の中に運んだ。デカデカ光るシロップのツヤとその上にだらしなく乗っかっているバニラのアイス。見るからに一番甘そうだけどシュンが食べる姿は本当に美味そうだ。

 

「ちょーうめぇ。」 

「シュンはアップルパイ似合うよな。」

「どういう意味よ?」

「似合うってことよ。」

どういう意味よ?」

「シュンはよぉー、なんか欲望にまっすぐじゃん?だからよ。アップルパイってなんか欲望って感じじゃん?一番甘そうだしよ。」

「意味わかんねぇ。」

「やべぇ言った俺も意味わかんねぇ。」

「まぁけど、オレは確かに欲望に正直だな。金ほしいし。」

「でも金のために生きるって、なんか負けてねぇ?」

「シュンちゃん、金だけじゃねぇべした。」

「じゃあ、何が勝ちよ?」

「いや何が勝ちっつうかー」

「欲望ってパワーじゃん。富とか名声。そういうのが動機でよくない?オレがお金を稼ぐってことは、誰かを幸せにするってことじゃん?誰かのニーズを満たすからお金がうまれるわけじゃん?」

「お金稼がなくても社会貢献はできるっぺよ?」

「お金稼いでも社会貢献はできるじゃん?」

「いやまぁー、そうだけんども。」

「大学での4年間あっという間だったじゃん?けどこの4年間で何もできなかった。そうこうしてる間に人生終わっちまうんだよ。だからオレは自分の気持ちに正直に進む。欲望に目背けてたって何もはじまんねぇじゃん。でもなぁ、でもなぁってばかり言ってっとなんも始まんねぇよ。」

 

シュン、わかるわ。その感じ。でもシュンとオレが違う事もわかるわ。

 

「失敗したらどうすんの?」

「ってか失敗すること考えてない。失敗する事考えるから失敗するんだよ。」

「シュンちゃん、それもう負けてると思うよ。欲望に正直かもしんないけど欲望に負けてる。人生そんなに甘くないべした。シュンちゃんが食ったアップルパイだって美味いかもしんないけど、砂糖めちゃくちゃ使ってるべよ?ちゃんとリスクも考えねぇと大変な事になっぞ。」

 

マー坊、わかるわ。珍しくいい事いった。でもマー坊とオレが違う事もわかるわ。あとオレの方がもっといい事言うわ。

 

「マー坊はやっぱつまんねぇ。ってかヤマちゃんは俺と同じアップルパイだよな?」

「うーんおれオッパイ。」

「上手くねぇべした。」

 

 

 

 


【第4回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

 

ほんとはもっとエモくてじーんと来る感じにする予定だったんですけど、ダメですねぇ。むずいっす。