刹那に散りゆく定めと知りて

ピンク色に染まったアスファルトの上に、風といっしょに、満開に咲く桜の花びらが次から次へとやってくる。今日はとても暖かい。というよりも暑い、といった方がいいかもしれない。マキオは羽織っていた上着のジャケットを脱ぎ、ズボンのポケットに入っていたハンカチで額の汗を拭いた。

 

「やべぇ、時間ねぇな。バスまであと45分しかねぇ。つか腹へった。。」

転勤になった初日、全く土地勘のない場所に顧客先への挨拶回りで訪れたわけだが、予想以上に時間がかかってしまい相当体力を消耗してしまっていた。桜の木の下でお弁当というよりも、とにかく涼しい場所でご飯を済ませて本社へ戻りたいとマキオは思っていた。

 

「すいません、僕この辺、初めて来たんすけど、近くにご飯たべれるようなところってないすかね??」

「おめぇココ何屋だと思ってんだよ!?」

店番をしていた店主にそう返され、恐る恐る表の看板を見上げると特太ゴシック体で書かれた「闇金 BANGBANG 🔫 」という文字が見えた。

 

「マジすんません!!間違いました!!失礼しました!!!」

「はぁ!?何いってんだよてめぇ!!!」

「えっ!!?」

「ウチで食ってけばいいじゃねぇかよ!」

「ぇあ、え?つか、え?」

ウチで食ってけばいいじゃねぇかよ!」

「いやぇあ、え?つか、え?」

「ウチの2階、中華料理屋だ。このすぐ奥に階段があっから、そっから上がれよ。」

「うやぇあ、え?つか、え?」

「早く行けよ馬鹿野郎!!!!てめぇ殺すぞこらぁ!!!!」

「えやぇあええはい!!!!!」

 

訳が全く分からなかったが、そんな事を言っている場合ではなかった。時間もない上に命まで危ない。両手でカバンを抱え案内された方向に早足で進んでいくと左手に階段が見えた。

 

「マジであんの!?つかなんで!!!」

「早く行けよ馬鹿野郎!!!!てめぇ殺すぞこらぁ!!!!」

「ええぁああはい!!!!!」

マキオは、ぎぃぎぃと軋む音のする階段を駆け足で上がっていった。

 

「いや。。。- 中華 「フレンチ」-って。。」

お店の入り口に掛けてある暖簾に違和感を感じながらマキオは中華フレンチの暖簾をくぐった。

 

 

案の定、店内にマキオ以外のお客さんはいなかった。お客さんどころか誰もいなかった。店内を見渡すと、天井には大きなミラーボールがぶら下がっていて壁の張り紙には「色々おかしいなと思う事があっても我慢しろ」と書かれていた。帰るなら今のうちだと思い再び暖簾に手をかけた所で奥から店員がやってきた。

 

「おめぇ誰だよ?」

「いや、えと、すいません客です。。」

「おぉそうかい。」

「あ、はい、そうです。」

「まぁ座れよ」

「あ、はい、どうも。。」

「これメニューな。いまよ、水持ってやってきてやっから決めとけや。」

「あ、はい。。」

 

店員はそう言い残して再び厨房の方へ消えていった。時計の時刻は12時半になっており、バスの出発まであと30分しかなかった。とにかくサッと食べて一刻も早くこの空間から出たいと思ったマキオは時間のあまりかからなそうなチャーハンにすることにした。

 

「すいませ〜ん!」

「うるせぇばかやろっ!!!!!呼ぶんじゃねぇ!!!」

「すすすすいません!!!!」

「待ってろよ馬鹿野郎!!」

「えああはい!!!」

 

店員が奥の厨房からやってきた。

「なんだよ?」

「あ、えと、チャーハンお願いします!!」

「チャーハンかぁ。わりぃ、飯いま切らしてんだわ。中華丼だったらできっぞ?」

「ほぇ?」

「だから中華丼だったらできっぞって言ってんだよこのやろう!!!!!」

「あ、あの、ご飯ないんですよね?」

「そうだよてめぇ同じこと何回も言わせんじゃねぇよ!!!ぶっ殺すぞこの野郎!!!」

「すすすすいません!!!!」

「中華丼だな?」

「はははい!!!」

「ちょっと待ってろ馬鹿野郎!!ぶっ殺すぞごらぁ!!!」

 

その時だった。

 

「BAKYUUUNNN!!!!!!!!!!!」

「うぇあぁあああ!!!!!!!」

 

大きな銃声と1階で店番をしていたおやっさんの悲鳴が聞こえ、店員は急いで窓を開けて、下を見た。1階の入り口から5人のパンチパーマの集団が中に入って来るのが見えた。

 

「ばっきゃろー、なにやってんだよ!!!!!ぁあああああ!!!!!!」

店員はそう言ってすぐ隣の壁にドロップキックをした。そこには隠し扉があった。

 

マキオぉっ!!もぉおめぇは兄弟やぁあ!!!!」

 「ぉおええあああ!!??すません、つかなんで俺の名前知ってんすかぁ!!!??」

「いいから早くついて来いやっ!!!」

 

店員はそう言い放ち、隠し扉の向こうへ走っていった。マキオは跪いてがっくり肩を落とし、大粒の涙を油で汚れた床に落とした。そして開けた窓からヒラヒラと迷い込んだ桜の花びらがマキオの拳にとまった。

  

 

 

 

 

 

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どうしてこうなった。